認知症を知る
認知症ってなんだろう?
認知症という言葉を聞くと、不安や心配を感じる方も多いかもしれません。しかし、認知症は正しい理解とサポートがあれば、安心して日常生活を送ることができます。
ここでは、認知症の基本知識、症状、主な種類を解説します。認知症への理解を深め、適切な対応のヒントを見つけましょう。
認知症とは
認知症とは成長にともなって獲得してきた認知機能(覚えること、話すこと、日々の行動や理解、判断など)が複数失われることで、日常生活に支障がでる状態です。加齢にともなうもの忘れとは異なります。病気により起こり、原因はさまざまです。
加齢にともなうもの忘れとの違い
加齢にともない起こるもの忘れの場合、ヒントを与えられるとその出来事を思い出せます。一方、認知症では、出来事を記憶にとどめることができません。そのため、ご本人にとっては、全く体験していないことになり、「さっき、そう言ったでしょ」と言われても答えようがなくなるのです。
認知症で起こる症状
認知症で起こる症状には次のようなものがあります。認知症はさまざまな形で現れますが、理解し対応を工夫することで、日常生活をより安心して過ごせるようになります。
記憶障害
出来事を記憶にとどめることができなくなります。つまり、単なる「もの忘れ」ではなく、「もの覚え」ができなくなるのです。病気の初期段階では、最近の出来事や少し前のことを覚えられませんが、進行すると昔の記憶も少しずつ失われていきます。
<対応の工夫>
- 本人:メモやスケジュール帳を活用し、日付と出来事を書き残しましょう。大切なものは保管場所を決めて家族にも伝えておきましょう。
- 家族、周りの人:口頭だけでなくメモで伝言を残しましょう。何度も同じ質問を繰り返すことは、ご本人が気になっている、困っていることの可能性があります。複数回同じことを尋ねる時は、ほかのことを提案して気分転換を図ることが有効な時があります。
見当識障害
日付や時間、場所の感覚が悪くなります。症状が進むと、自分が今どこにいるのか、何日なのかがわからなくなり、道に迷うことや日常のスケジュールを忘れてしまうことも多くなります。
<対応の工夫>
- 本人:カレンダーや新聞、手帳などを活用しましょう。日課や連絡先を書いて見やすい場所に貼っておきましょう。外出するときは、ご家族に行き先や帰宅予定時間を伝えておきましょう。
調理中は火のそばを離れない、タイマーをセットするなど火の取り扱いに注意します。IH調理器具や電気ポットの利用などに切り替えることも検討しましょう。 - 家族、周りの人:日めくりカレンダーや大事な日に印をつけるなど、日にちを意識するようにします。日によって症状に波があります。
遂行機能障害
遂行機能とは、目的を達成するために計画を立て、準備し、それを順序立てて実行する能力のこと。この機能に障害が生じると、たとえば料理をする際に、何を買えばいいのか、どの順番で作業するのか、どの調理器具を使うのかがわからなくなることがあります。
<対応の工夫>
- 本人:よく使うボタンに印をつける、献立をパターン化するなど生活をシンプルに組み立ててみましょう。
薬の管理が難しく感じたら、一包化や薬カレンダーの利用など様々な方法があります。かかりつけ薬局に相談しましょう。 - 家族、周りの人:今までと同じようにできなくても、ご本人ができることで役割を持ってもらいましょう。
失行
洋服を着る、リモコンや電子レンジを使うなど、これまで普通にできていた日常の行動に支障が出ます。例えば、ボタンをかけ違えたり、調理器具の使い方がわからなくなったりするなど、さまざまな日常の動作が難しくなります。
<対応の工夫>
- 本人:自身で日常生活動作が難しい時はホームヘルプサービスなどの活用を検討します。
- 家族、周りの人:見守りが必要です。介護保険申請やサービスの利用を検討しましょう。
失語
言葉の理解が悪くなったり、思う言葉が出にくかったりします。例えば、話しかけられても内容がわからなかったり、自分の考えや気持ちを言葉でうまく伝えられなかったりなどがあります。また、適切な単語が思い浮かばず、言いたいことが表現できないこともあります。
<対応の工夫>
- 本人:焦ると余計に混乱することがあります。心地よい会話ができる相手と話しましょう。
- 家族、周りの人:簡単な言葉で区切って伝えましょう。
感情の変化
今までできていたことができなくなると、ご本人にとって大きなストレスとなり、苦痛を感じる要因になります。また、できないことに対する周囲の反応も、ご本人のストレスを増やします。病気に伴う脳の変化によって、意欲の低下・不安・不眠・いらいら・無気力・無関心・幻覚(実際にはないものが見える)・妄想(事実でないことを事実と思いこむ)などが現れることがあります。
<対応の工夫>
- 本人:イライラして回りの人に大声を出したり手をあげてしまうときは、お薬でイライラを抑えることができることがあります。かかりつけ医に相談しましょう。
- 家族、周りの人:やりとりがスムーズにいかないからと大きな声や強い口調で伝えると、理由が理解できなくても、不快な負(マイナス)の感情は残ります。安心できるようにコミュニケーションをとるように心がけましょう。
ご家族がストレスをためないように、気分転換を図りましょう。
体調の変化で症状が悪化することがあるので、定期的にかかりつけ医に相談しましょう。
お薬で症状が調整できる場合があります。
上記の対応は一例です。対応方法に困ったときはご相談ください。
認知症の症状を引き起こす代表的な病気
認知症にはいくつかの種類があり、それぞれ異なる原因で発症します。以下に代表的なものをご紹介します。
アルツハイマー型認知症
アミロイドβタンパクと異常リン酸化タウというタンパクが脳の中に溜まることで脳が痩せ、覚えたり、学んだり、話をしたりなど多くの認知機能が低下し日常生活が不自由になります。脳の働きを助ける薬はありますが、病気を完全に治せる薬や予防方法はまだなく、病気は少しずつ進行します。
レビー小体型認知症
レビー小体という異常タンパク質が脳や神経の中に溜まるために脳が痩せ、認知機能の低下がみられます。うつ症状や幻覚(ないものが見えること)、パーキンソン病の症状、頑固な便秘や立ち眩みなどの自律神経障害、意識状態の変動が頻繁に見られることが特徴です。
血管性認知症
脳梗塞や脳出血により起こる認知症です。明らかな梗塞の症状がなくても脳の中に小さな脳梗塞がたくさん起こった結果として認知症の症状を起こす場合もあります。
多くの認知症は高齢になって発症するため、脳の中にいくつかの病気が同時に起こっていることが多く、症状は非常に複雑に絡み合って現れます。画像検査のみでは簡単に診断できないため、専門医にご相談ください。
軽度認知障害(MCI)
軽度認知障害は、認知症の前段階とされる状態です。認知症ではありませんが、正常よりも少し認知機能が低下した状態を指します。年間5~15%の人が認知症に進行するとされていますが、一方で年間16~41%の人は正常に戻ると言われています。この状態は簡単に診断できるものではなく、その後の経過を慎重に見極める必要があります。もの忘れが少し心配と感じる場合は、専門医にご相談ください。
認知症の予防につながること
残念ながら現在のところ、認知症にならないという予防方法は確立されていません。
しかし、生活習慣(ライフスタイル)の改善で認知症の発症リスクを減らすこと、進行を緩やかにすることが期待できます。ご家族の生活習慣病の予防にもつながります。
以下の項目を意識して、日々の生活を送りましょう。
食事
健康維持のため、主食・主菜・副菜を基本にバランスのよい食事を心がけましょう。
塩分は控えめに。
運動
ウォーキングや体操など、無理のない範囲で運動を継続的に行いましょう。
知的活動
本を読んだり、趣味を楽しみましょう。新しいことに取り組むことも効果的です。
社会参加
地域活動や趣味のグループに参加するなど、積極的に他者と交流しましょう。
治療薬について
治療薬は、1日1~2回内服や貼付する方法と、点滴とあります。完治でなく、症状の進行を遅らせる対症療法です。
詳細は、認知症専門医へご相談ください。