認知症になっても安心して暮らす~成年後見制度の基礎知識~

講演レポート

井村華子氏<代々木上原栃木法律事務所 弁護士>

鈴木盛博氏<渋谷区成年後見支援センター>

成年後見制度とは?

自身も何人もの成年後見人となり生活を守ってきた弁護士の井村華子先生。成年後見制度について、詳しく聞きました。

「成年後見制度」とは、精神上の障がいにより、ものごとを判断する能力が十分でない人について、本人の権利を擁護する援助者を選ぶことにより、本人を法律的に支援する制度。

この援助者のことを「成年後見人」と呼びます。成年後見制度には、判断能力が不十分になった後に行う法定後見と、判断能力がある任意後見のふたつがあります。ここでは法定後見についての説明をします。

認知症となった方もこの制度の対象です。裁判所へ申し立て、許可をもらうことで活動ができます。一方で、身体に障がいのある方には不適用となります。成年後見制度が利用する例として、銀行の入出金や不動産の処分、施設入所の手続、本人の財産の搾取を防止する、などがあります。

成年後見人となる人には、主に親族と専門職があげられます。社会福祉士や弁護士、司法書士などの専門職が担うことが約8割、親族は約2割です。

親族でも専門職でもない人が担う場合もあります。最近注目されている「市民後見人」という社会貢献型後見人とも呼ばれる人たちのこと。成年後見制度を利用する人は2015年から2019年で約3万人も増えているのに対し、成年後見人の担い手は不足しています。これを補うために実施されており、自治体が開催する研修などに出ることで市民後見人となることができます。

申し立ての手続き

裁判所に成年後見制度の申し立てをします。手続きの流れとしては、戸籍謄本や診断書などの書類を準備し、裁判所へ申し立て。その後審判を経て成年後見人の活動が始まります。「経験上、制度の利用を決めてから、早くて2か月ほどで活動開始となると思います」と井村先生。

申し立てに必要な費用は、必要書類を集めるのに約2万円。裁判所に収める費用(印紙代など)が約7000円。そして本人の判断能力を鑑定する費用が5〜10万円かかることもあります。鑑定費用は、裁判所から指示があった場合にするもので実施するのは全体の7%ほどです。

申し立てができるひとは、本人、配偶者、4親等内(父母、子孫、兄弟姉妹、おじおば、甥姪、いとこなど〈配偶者も同様〉)の親族、市区町村長です。親族や配偶者、4親等内いずれも適切なひとがない場合に、市区町村長が申し立てをすることがあります。

申し立てに必要な書類は、診断書、本人の戸籍謄本、本人の住民票、財産目録・通帳の写し、収支予定表などです。本人が病院に行くのを嫌がり、診断書の取得が難しいケースもあります。判断能力を測るための診断書なのでできるだけとるように努力をしつつ、ほかの資料で提出をすることもできます。「代わりの方法を専門の相談員と検討しましょう。制度の利用を諦めないで」と井村先生。

成年後見人の職務と権限

契約などを代理で行うことと本人が行った契約などを取り消すことができるのが、成年後見人の権限です。ただし居住用の不動産の処分の契約や、スーパーへの買い物など日常生活に関する行為の取消権は、裁判所の許可がないとできません。

施設入居のためや介護サービスを利用するための契約、入院の手続きなど生活まわりのことを行う「身上監護」と「財産管理」がその職務となります。またその任期は、本人が亡くなった場合、成年後見人が辞任・解任した場合、本人の能力が回復した場合などに終了となります。

制度を利用して、本人が安心して生活できるようになるケースがたくさんあります。すこしでも利用を考えている方は、相談窓口にご相談ください。

成年後見制度に関する相談窓口

渋谷区成年後見支援センター(渋谷区社会福祉協議会)

TEL 03-3780-9408