認知症の方を支えるために〜訪問診療の現場から〜

3月21日(日)13:00〜13:40 開催レポート

※認知症サポーターフォローアップ研修対象講座です

認知症の診療で何より大切なことは「生活の現場を知ること」。訪問診療の現場をお伝えします。

出演者

むすび葉クリニック渋谷 荒川千晶氏

講演レポート

荒川千晶氏<むすび葉クリニック>

データで知る、認知症

総合病院に19年間勤務し、第一線で認知症の調査をしてきた荒川千晶先生。認知症診断が進んでいない現実を知り、地域に入って診療をするため、渋谷でむすび葉クリニック渋谷を開きました。認知症患者とその家族に寄り添い続ける荒川先生のお話です。

人類の平均寿命は1900年代前半まで30歳代だった、と荒川先生。半ばには寿命のジャンプアップがはじまり、高齢化社会の幕開けを迎えます。現在の日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳。紛う方なき長寿国家です。

浄土真宗の生みの親・親鸞聖人も長寿であったそうです(90歳の人生でした)。「目も見えなくなり、みんな忘れてしまうので、ひとに教授できない」という、高齢によって説教ができなくなった気持ちを弟子に向けて綴っています。親鸞聖人、85歳のときのことでした。現在でも、このような気持ちの高齢者は少なくないのではないでしょうか。

認知症の罹患率を見てみると、80〜84歳では4人に1人、90歳以上では過半数が認知症となっています。データで見ると、脳の病気であることに加え、老化現象であることがわかります。

薬の処方の注意点

高齢者には少なからず複数の病気があり、認知症患者の多剤併用がみられます。

日本老年学会「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」によると、6種類以上の服薬は副作用がみられ、5種類以上となると、転倒が増えるというデータがあります。多剤併用を避けるために、「誰が薬を管理する? 服薬の確認をするか?」をはっきりさせ、薬の根拠や優先順位など処方の注意が必要となります。

また、半数以上が10分以上かけて薬を服用していることが調査によってわかりました。朝や夕方、それぞれの10分。介護者にとっても、複数の薬を飲ませることは負担になります。荒川先生は、薬を処方する医療サイドにも注意をうながします。

認知症の方の想い

続けて、荒川先生は言います。「絶対にしてはいけない誤解があります」
認知症になれば何もわからなくなるから幸せな病気だね、なんてことは絶対にちがいます、と。

認知症の方は苦しんでいます。

  • 「一日一日忘れることが増えて、記憶がなくなる恐怖」
  • 「まだまだ楽しく生きたい! その権利も奪われるのか」
  • 「時間をかければ思い出せるのに、周りは待ってくれない」

これは、認知症患者のひとりひとりの声です。悩みのなかで生きていることが伝わってきます。

一方で、家族の方も悩んでいます。

  • 「幻覚が見えていて騒いでいる。私には理解ができない」
  • 「部屋のそこら中が便だらけ。トイレがひとりでできなくなるなんて……」
  • 「財布を盗られたと大騒ぎ、しかも私が犯人扱い」

これも疲弊した家族の叫びであることは事実です。

幻覚症状やトイレで排泄ができない不潔行為、徘徊や妄想などの行動・心理症状を防ぐための「いろは」はありますが、これは原則論です。これを24時間365日できるのか? そのなかでご家族をはじめとした介護者の生活は成り立つのでしょうか? 介護者の生活の確立の上に、認知症患者の方を守ることが大切ですが、非常に難しい現状があります。トライアンドエラーをくり返しながら診療しています。

できなくなることが増える認知症ですが、残存機能は豊富にもっています。「できること」を活かし成功体験を重ねていくことが大切です。認知症の方の「心の本質」はわたしたちと変わりがないはず。ご本人やご家族をすこしでも光のさす方へ、導いていけるような診療をしていきたいと、荒川先生は言います。