老耄(ろうもう)と認知症〜認知症落語「最中怖い」〜

3月20日(土)10:00〜10:40 開催レポート

認知症落語(認知症をテーマとした創作落語)で、高齢期の認知症について学びました。

出演者

都立松沢病院 認知症疾患医療センター長 新里和弘氏

講演レポート

新里和弘氏 <都立松沢病院東京都地域拠点型認知症疾患医療センター長>

認知症落語『最中怖い』

ライフワークは「認知症と笑いの効用」という新里先生。実は、“安楽亭くしゃみ”という落語家としての顔も持っており、はじめに認知症落語『最中怖い』のVTRが披露されました。

『最中怖い』は、とある有料老人ホームが舞台。利用者さんの誕生日会で「私の怖いもの」を一人ずつ発表していきます。それぞれのエピソードは、お年寄りにありがちな話ばかりで「年をとるとこうなる」ということがわかりやすく表現されていました。症状についての解説もさりげなく盛り込まれており、笑ったり頷いたりしながら楽しく聞ける内容で「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ」という新里先生のあたたかいメッセージが伝わってくる落語でした。

■高齢期の認知症は老耄現象である

日本では、100歳以上の人口が年々増加しており、10年以内に23万人を超えることは確実と言われています。認知症の罹患率は80歳以上で約3割、90歳以上で約7割、100歳上で約9割。人間は年齢とともに目や耳、筋肉など身体のいろいろな機能が老化していき、脳も同様です。ですから「高齢期における認知症は、老耄現象である」と捉えることが自然ではないかと思います。

2019年5月にWHOが発表した『認知症予防ガイドライン』12カ条の推奨項目の中で、強く推奨されている項目は以下の5つ。中でも、とくに体を動かすことはとても大切なので、予防としてぜひ意識してください。

  • 1. 体を動かすこと。
  • 2. 禁煙
  • 3. ビタミンB、E群、不飽和脂肪酸などのサプリメント類を摂りすぎないこと
  • 4. 血圧管理
  • 5. 糖尿病管理
(WHO:Risk reduction of cognitive decline and dementia; WHO GUIDELINSより)

■認知症とわかったらやるべきこと

高齢者の認知症は、怪我や病気をせずに刺激のある生活をしていればそれほど進行しません。しかし、ゆっくりと進行している中でやっておくべきことがあります。認知症とわかったら、まずやっていただきたいことは次の3つ。

  • 1. 先々、誰とどこに住みたいかを周囲に伝える
  • 2. 食べられなくなったらどうするかを考える
  • 3. 保険や財産の目録を作る

食べられなくなった場合には、点滴をする、体に管を入れるなどの他に、何もせず様子を見るという選択肢もあります。生存期間は短くなるかもしれませんが、生活の質や満足度は高くなる場合もありますので、自分の思いを周囲に伝えておくことが大事です。※「高齢者ケアと人工栄養を考える」という本がわかりやすいので、ぜひ参考にしてください。

90歳以上の超高齢になると精神的幸福度が高まる『老年的超越』という境地があります。これは、エイジングパラドックスと呼ばれ、「ありがたい」という感謝の気持ちが湧いたり、自分にとって本当に大切なものがわかったり、宇宙的な視点から自己の存在を感じられる状態になるそうです。年を重ねるというのは、決してマイナスなことばかりではなく、プラスの面もあるのです。

最後に、認知症の方を介護しているご家族に送りたい言葉を3つお伝えします。

1. 力を借りること
認知症の介護は家族だけで完結できるほど生易しいものではありません。
介護保険の他にも認知症カフェや家族会などもありますので、ぜひさまざまな人の力を借りてください。

2 . 観察上手は介護上手
認知症の方の様子をよく見ていると、いろいろなヒントが見つかることがあります。
ぜひよく観察してみてください

3. 隠すよりオープンに
認知症であることを秘密にするのではなく、オープンにすることで気持ちが楽になることがあります。
同じ境遇にいる人と話し、つながりを作ってください。